ちーちゃんの戯れ言パンチ
 
 
らうんどよん
 

 
 
「どうしてもつたえなくちゃいけないことが、あるんです」
 
 
桑島秋人は荻野紗代にそう言った。時は夕暮れ、場所は私立クリプトメリア学園、通称P高校の、購買横の自販機コーナーだった。雰囲気的に、小田和正の曲でも流れてきそうであった。銀縁眼鏡の奥の瞳は切なくて。荻野紗代は、相手が年下であっても、いやさ、年下であるからこそ、ちょっと、どきん、とした。その相手はむろん自分ではなく、日比野千歳であることは承知の上で。いや、だからこそ、かもしれない。人ごとであるほうが、物事は綺麗に見える・・・ものだ。どこぞで聖母様がみているかもしれない。
 
 
さて。
 
 
日比野千歳に会いに来た、という中学生の案内を頼まれた元陸上部の期待の星にして、現在ボクシング部員である荻野紗代であるが、その当人が、まだ学園内に戻っていないため、しばらく時間を潰すためにこの自販機コーナーに少年を連れてきていた。
部室内でまたせる選択もあったけれど、ここは水分補給をかねて。事情の方も聞いておきたいし。いったい、日比野せんぱいとどういう関係なのでしょうか、君。というわけだ。
警戒心よりは好奇心。頼まれたことは最後まできっちりこなす一途な性格もある。
要は面倒見がいいのだろう。個人競技をやっていても、面倒見がいい者はいいのである。
 
 
そして、水分補給をしながらの、しばしの雑談タイムとなるのだが・・・・
 
 
ストレートに荻野紗代が日比野せんぱいに会いにきた理由を問うてみると、そんな答がかえってきたのである。真摯な瞳で。特別、想像力が発達している方ではないが、荻野紗代も一応、年頃の女生徒の一人として、”そういうこと”をいわれては、”そういうこと”を想像してしまうではないか。いわく、「人間ラブレター」・・・・・
 
 
つまりは、どこやらで日比野せんぱいを見初めて、初めて襲われる激しい感情の高ぶりのまま、ここまでこうやって告白をしにきた・・・・と。そうではないか、ではないか、きゃー!!てなもんである。出来ればすぐにでも誰かに教えたくなるのが女の性であるが。そんなことをすれば、このにきびもない繊細そうな子は、倒れてしまうんじゃないか・・・と心配したり。荻野紗代、これまでスポーツ一筋で、未だ恋に恋するお年頃である。
 
 
桑島秋人もべつだん、言葉を選んだワケではない。未だ中学生、そこまで考えているわけではなく、ひどく正直なことを、ストレートに言い返してしまっただけのこと。
日比野千歳にどうしてもいいたいこととは、
 
「姉さんは、あなたの戯れ言になんて絶対に、負けませんから!」
 
ということであり、心にあるのは恋愛感情などではなく、むしろ敵意。
これが小学生くらいであると、
 
「このオバケおんな!腕なんか伸びたって姉ちゃん負けないんだからな!!べー!」
 
くらいになる。いずれにせよ、日比野千歳は、姉の対戦相手であり、秋人にとっては敵なのである。ゆえに、この絶好の機会に情報を収集しておく・・・のだが、その行為はこのいかにも親切な、あたたかい笑顔を向けてくれる荻野、紗代さんに対する、裏切りとはいわぬまでも、日比野千歳は紗代さんにしてみれば部活の先輩で、同じ陣営に所属する、味方であろうから、そこから弱点であったり、不都合な情報を引き出したり、というのは、・・・・なんというか、しくじりというか、それがばれたらあとで部活の先輩たちに虐められたりしないだろうか、とか思ってしまう桑島秋人である。愛情ある家庭で育っているために、こんな時にも相手のことを考えてしまう。育ちがいい、とは金銭だけのことではない。だけれど、ここで躊躇していれば・・・・試合の日に、姉がギタギタにやられるのは確定なわけで・・・・・・
 
 

 

おごってもらった缶コーヒーをぎゅっと握りしめる桑島秋人。
 
 
「あ・・・ひ、日比野千歳さんは・・・・・その・・・・」しばらく迷う。
どういえば、何をいえばいいのか。情報を、秘密を、弱点を、あの日あったことを、聞き出さないと・・・・
 
 
「ん?」荻野紗代の笑顔はやさしい。どんな質問でも受容してくれる、なんでもおねえさんに聞いてみてモードに入っている。缶コーヒーをぎゅっと握る純な仕草がまた可愛い〜。
 
 
 
「つ、強いんですか・・・・・・・・・・あ、あの・・・・ボクシング・・・・」
 
 
 
結局、心理的葛藤、迷いのままに、情報を収集するにはかなり薄味で、まるいことを聞いてしまう桑島秋人。穴のあいたおたまでちゃんこ鍋をすくうようなものだ。
 
 
しかし、それがよかったのかもしれない。小賢しく曲がりくねったり誘導尋問などをしようとするより、よっぽどあっさりと荻野紗代はこう答えたのだから。
 
 
「それはもう。この前、練習の相手をしてもらった時には、まんまとひっかかっちゃって、パンチも当たらない内から、ぺたん、と座らされちゃったくらい」
 
 
「・・・・・え?」
 
 
「あの実験にはやられちゃったな〜・・・・・って、あれはボクシングじゃないけど」
あはは、と荻野紗代は笑っているけれど、大いにショックを受ける桑島秋人。
 
 
「でも、もちろんボクシングも強いよ。あの運動神経ならなんでもいけるんじゃないかな。おっとりしたお嬢様みたいな外見だけで憧れているんなら、ちょっとショックかもしれないね・・・・あ〜!、でもほんとのことだし・・・ごめんね?」
紗代さんがなにを謝っているのか、桑島秋人にはいまいちよく分からなかった。
もしかして、なにか誤解があるのかもしれない。
 
けれど、肝心な、大事なことはそんなことではなく。相手が、「疑惑その3」を完全に受け容れて解明していることだった。荻野紗代さんは、その答えを知っている・・・・!
やられた当人なのだから当然のことかもしれないが、それでもこうあっけらかん、と前の前で言われると。自分の悲壮な決意はなんだったのか、という気もしてくる。
 
「もちろん、日比野せんぱいはいい人で、やさしいし、手先も器用だし、ほんとにお嬢様だけど全然たかびーじゃないし、いっしょにいると、桜のお花見をしているようなほんわかな気分になれるから・・・・・素敵な人だよ。学園内で”およめさんにしたい女子生徒”コンテストでもすれば、たぶん、ナンバー1か2かにいくんじゃないかな?・・・・あとは・・・・」
 
 
「”あの趣味”さえなければ・・・・美月せんぱいに・・・最近、微妙に”領域”をひろげつつあるような・・・うーん・・・・」
 
「あの趣味?」べつに日比野千歳の評判を聞きにきたわけでも、いい人だろうと絶対につきあってはいけない女ベストテンの中に入っていようとも僕には関係ない!迷って出した中途半端な問いかけが思わぬ反応を呼んだことに、事の中核がすぐそこまで出現しかかっていることに、意識を集中する桑島秋人。声をひそめて聞き入る。ここから先の話は、情報は、一言一句も逃しちゃダメだ。銀縁眼鏡が強く光る。が・・・・・
 
 
「紗代ちゃん」
 
 
その絶好の機会に、よりによって声をかけてくるやつがいる。こ、こんな時に・・・さすがに頭にきて、振り向いてそいつを睨みつける桑島秋人・・・・そして、絶句する。
 
 
「お客さんが来てるって部室で聞いたんだけど」
 
「あ、日比野せんぱい」
 
 
日比野千歳が立っていた。
 
 
着物のように上品な白い鶴がデザイン刺繍された桜色のスポーツウェア。そこらのブランド品よりもグレードの違いそうな、おそらくは彼女のためのオーダーメイド。運動をするための機能を最重要とされていながらも、異様に似合っていた。うっすらかいている汗、それでいて、すらりと伸びた姿勢、姉にはないなにか、華がある、ということを認めざるを得ない。・・・これが三つの疑惑をしもべのように従えた、この探求(クエスト)におけるいわばラスボス・・・・日比野、千歳・・・が、あらわれた!。
 
 
どうしたものか?
 
 
”たたかう”・・・・・か、
 
”どうぐをつかう”か・・・・、
 
”まほう”か・・・・
 
それとも。
 
”にげる”か・・・・・
 
 
桑島秋人は・・・・・
 
 
 

 
 
「姉さん!大変だ!分かったんだよ!姉さん!」
 
 
走って家に辿り着くなり、大急ぎで階段をあがって途中で転びそうになりながらも姉の部屋に飛び込む桑島秋人。ノックくらいしなさいよ、というのが年頃の中高生姉弟のやり取りの定番なのだが、そういうこともなく。姉の部屋はがらんと。まだ、帰っていなかったらしい。
 
 
「母さん!、姉さんは?」階下の台所にいる理保ママに尋ねてみる。この調査結果をすぐに、今すぐにでも姉に伝えたくてしょうがない。まだ帰っていなかったとは思っていなかったので、噴出を留められた想いは少年の胸の内でマントル対流を起こす。
 
「今日は、お友達の家に泊まるって。さっき連絡があったわ。もしかしたら2,3日泊まるかもって」
理保ママの答はあまりに予想外のもので、秋人を仰天させる。
 
「はあっ!?、こ、こんな時に・・・・?それに、そんな急に・・・・・」
 
ほんとうだろうか?まさか変質的誘拐犯にそう言えと脅されてどこかに監禁されているんではなかろうか?母さんはおおらかというか、全然心配しないたちの人だから・・・!
と、そこまで暴走して、はた、と思いつく。そこらへんがシスコン呼ばわりされても文句は言えないところである。
べつに連絡がつかない、というんじゃないんだから。電話があるし、今はさらに便利な携帯電話もある。伝えることはさしてむつかしいことじゃないし、どこの友だちの家に泊まるのか知らないけど、電話で十分だ。・・・・・母さんが正解だよ。ごめん。
内心で謝る息子に、追い打ちをかける理保ママ。
 
 
「合宿みたいなものかしら。ちなみに、連絡はしないでって」
 
 
「はい!?なんで?!」
そんなのあるか!とうとう日比野千歳の戯れ言パンチの謎を解いてきたのだ。
 
・・・・聞いてみればそんなことか、と思うようなことだけれど。
 
・・・・日比野千歳はなんというか・・・・ヘンな女だ。
 
確かに、まっすぐというか直球な姉さんなら、「あんなこと」をしていたなんて、想像もできなかっただろう。
 
疑惑1,疑惑2、は完全に解明された。そんなことすぎて、別に今さら伝えなくていいくらいに完璧に。なんせ、本人と、証人かわりのその場にいた後輩の口から聞いたのだから。
 
ただ、問題は、「疑惑3」・・・・これは、教えておいた方がいいかもしれない。
 
これこそ、知っておかないと完璧に「はまりこむ」恐れがある・・・・・・
 
一刻も早く不安の五里霧中にあるだろう姉さんの蒙を解かなければ、いけないのに。
 
 
「ちょっと、一人になって考えてみたいから、だって」
 
お友達のところなら一人じゃないじゃないか、とも思ったが、・・・・・なんだか心配になってきた・・・ほんとに友だち、の所なんだろうか。
 
「友だちって誰?」
 
 
「秋人の知らないお友達、お姉ちゃんを強くしてくれるお友達。だから、心配いらないの。今は見守ってるだけでいいのよ・・・・・さあーて、グラタンが焼けましたよ〜と」
 
オーブンからグラタンを取り出す理保ママ。なんかテーブルをよく見れば、油の強そうなメニューが多い気がする・・・・
 
 
「う〜〜む、いい匂いだ。ママのグラタンは絶品なんだが、久しぶりだなあ!」
子供のように喜んでいる冬樹パパ。娘がいきなりの泊まりというのに。いい度胸だ。
「さあ、秋人もいろいろ調査でお腹が減っただろう?手を洗ってきなさい、食事にしよう」
空腹よりも苛立ちの方が強かったが、父親の言葉にうなづく。
 
・・・・どうも、この両親には見抜かれているっぽい。今日、調べてきた聞いてきた全ての内容すら。けれど、それでいいんだろうか?姉さんは、あんなに気落ちしていたのに。
この胸にある話を聞けば、それはすぐに晴れるのに。帰ってくるまで、姉は不安の中にいる。それが正しいことなんだろうか。幻影に怯えて無茶な山籠もりの特訓とかしてケガとかしたら・・・・・
 
 
「たまには、そういうこともあるものさ。・・・・・必要なことなんだよ。
いずれ、秋人、お前にもそういうときがやってくる」
グラタンをにこにこパクつきながら、冬樹パパがそんなことを言った。
 
 
「・・・・・・」
姉がいない食卓で食べるグラタンは、おいしくない・・・・はずなのだが、おいしかった。
文学的少年的葛藤は、理保ママの料理の腕前にノックアウトさせられていた。
姉さん、ごめん!・・・・そして、ほかのこってり系料理もおいしかった。ごめん・・・
 
 
 
ちなみにそのころ、桑島夏樹は・・・・
 
とある海のそばの町にある”友人宅”で、さっぱり新鮮魚料理をご馳走になっていた。
 
 
 
 
さらに、それよりもう少し前の時間のこと・・・・P高校ボクシング部にて
 
 
「うわああああああんっっっっ!
ち、ちーちゃん、ゆるしてええ・・・・」
 
 
高梨美月が、日比野千歳にこの間と同じようにロメロ・スペシャル、つまり
 
 

「吊り天井固め」(関節技)を思い切りくらっていた。

 
 
そりゃもう、このとおりの悲鳴があがるくらいにビンビンに。いくらプロボクサーとして鍛えていようが関節技を喰らえば痛いに決まっている。おまけに、この技はいまだに未完成で、千歳スペシャルだかよく分からないが、さらに進化していくらしい(本人談)・・・早い話が、いい実験台なのだった。おっとり型で人当たりもよく、周囲の評判も上々の日比野千歳の困った点がこれであり、ボクシング以外にも多様な格闘技を観戦してきちゃあ、感心した技を誰かに試さずにはいられない・・・・・その標的、実験台として、もっぱら餌食にされているのが、高梨美月なのだった・・・・・
 
 
「ほ、ほねが、ほねが、せかいがさかさに、あ、あ、あ、
ひ、ひわ、ひわ、ひわ・・・・」
 
 
二人の良好な関係を考えれば、これはスキンシップの一環、なのだ、とはいえ。電波系のこの悲鳴である。聞いている方がたまらないので、なんとか自粛するように、部員が部長の徳川杏香に直訴したこともあるのだが、実験台である高梨美月の「んー、確かにいたいことは痛いんだけどね、まあ、物凄くよく効く柔軟体操みたいなもんだと思えば」の一言で、「じゃ、なるべく聞こえないところでやってくれい」ということで決着がついた。(まあ、他の格闘技に興味があるのは悪いことじゃないしね)という内心の考えもあったが。練習自体は真面目に、プロの美月に言うのは失礼かもしれないが、やっているんだし。おまけに顧問の文月先生が、自分の従姉妹の美月がやられてケラケラ笑っているのだから世話はない。
 
「はう〜・・・」本日も高梨美月は昇天した。
どことなく、気持ちよさげな顔で・・・・・
 
 
そして、風切り音がして。リサ・ランフォードの・・・驚愕の声
 
 
「・・・・ブ、ブレインサイド・・・?」
 
 

「さすがに側頭部ですから、寸止めしました。・・・・こういう変化もあるんですよ」

 

 
 
日比野千歳の「カカト」がリサ・ランフォードのこめかみのところで停止している。
 
脳天を直撃するよう高速で落とされたそれを今日はかわそうとした金髪の彼女の動きを追撃、龍の尾のように撓って振られ軌道を修正したそれは、強靱な破壊力を秘めて、目標の側頭部で解放される寸前で、速度と力を消去された・・・・素人離れした足技の冴え。
これだけ見れば、異種格闘技戦にしか思えない。ボクサーがものまねしている・・・・
 
 
「足技」などと。
 
 
誰もおもわないだろう。
 
 
「Boo・・・」小声でブーイングするリサ・ランフォード。自信にあふれた彼女らしくないが、けっこう悔しいのであろう。まるで反応できなかったし、あんなに足がしなやかにやわらかく動くとは想像も・・・ファンタスティックですらある・・・・・ボクシングではない、と言いつつ、賞賛するより嫉妬の方が先にダッシュしていた。
 
 
「さすがにもう、脳天へ直線コースだとリサさんなら楽にかわしてたでしょうから」
 
こないだからかわれた仕返し、ではなく、シンプルにそういうことなのだろう。
貴重なエクスペリエンス。一緒に練習すると高い経験値がもらえる相手。リサ・ランフォードは肩をすくめてみせる。先行していた小さなジェラシーに賞賛がすぐに追いついてタックル、ペタンコに潰して追い越した。
 
 
「やられたよ、チトセ」
 
 
しかも、あの寸止め。完全に力と速度をコントロールしているから、できる芸当。
ほんの数日前、力加減がむつかしい、と彼女は言って、もう、自分のものにしている。
すさまじい学習スピード、成長スピード。日本みたいなところで何を学べと思って来日したけれど、ミヅキをはじめ、学ぶことばかり。驚くことも多い。
私は、彼女たちのスピードよりさらに速く成長しなければ、ならない・・・
 
 
あ、もちろんボクシングで。あの器用さはちょっと自分にはマネできないしね
五十を越える星の国からやってきた金髪娘はスケールが大きいのだった。
 
 
そんなわけで、このところ、高梨美月のみならず、リサ・ランフォードまで日比野千歳の「実験台領域」に入っているのだった。そのへんは、日比野千歳もわきまえている。
それなりに鍛えて、分かっている相手ではないと、大怪我させてしまうことにもなりかねない。これがどうにも”わるいくせ”、それでいて、やめられないかっぱえびせんのような趣味であることも。自覚はあるのだ。それにかわいい後輩を巻き込むような性格ではない。おまけに、あくまで余技のことに、リングを使うほど礼儀を知らないわけではない。ボクシングのリングはボクシングをやるためにあるのだから。そこでプロレス技をためすなど、もってのほかである。
 
 
 
・・・こういう類のことを、桑島秋人は日比野千歳から聞いてきたのだった。
 
「今度また、代理ではあるけれど、試合をすることになって姉がよろしく、と。闘志がにぶるので直接、顔を合わすのは試合当日、リングの上で。そこで再会しましょう、と、そう伝えてくれと姉が」とかなんとか言うと、日比野千歳は「え?桑島さんの弟さん?再戦はもちろん楽しみにしてます!お互いがんばりましょうって伝えて下さいね」、と大喜びで、なんというか警戒心まるでゼロで、自分を陥れる人間なんて世界にはいません、という調子で、適当な合いの手をいれると、なんでもかんでも教えてくれた。紗代さんもあれだったが、なんというかこの部は情報管理をもうちょと考えた方がいいのではないか、と桑島秋人自身が心配になってきた。こう、なんでもかんでもばらしてしまっていいのだろうか?もちろん、桑島秋人は真面目少年であり、おやぢではないので、スリーサイズなど聞いたりはしないが。それだけ姉が脅威に、強敵視されてないのかな、と思うとまたそれで腹が立ってくるし。複雑ではあるが、日比野千歳が化け物でも妖怪でもキングコングでもXメンでもなんでもないことが判明して、なによりだった。確かにちょっとヘンな趣味ではあるが、知らない他人に迷惑をかけているわけじゃなし。マンガに出てくるような、スーパー美少女ボクサーなんかじゃないことが分かって何より何より、と思っていたが、ふと気になったことがあって聞いてみた。
 
 
「疑惑その3」のことである。
 
 
それについても、荻野さんからさっき聞いたんですけどー・・・と話を振ると、えらくあっさり教えてくれた。隠す気や秘密にする気はまったくないらしい。そんなに姉さんがこわくないのか!とちょっと怒りがこみ上げてきたが、もちろん口にはしない。それではただのヘンな奴である。せっかく戯れ言パンチの最大の秘密(というか、他の1,2はあまりのオチに姉に怒りがこみあげる・・・関節技とキックはボクシングじゃ反則じゃないか!)を教えてくれるというのだから。
 
 
リングの上で、ゴングが鳴ってから、それは起きた。
 
パンチが触れていないのに、相手が倒される・・・・・
 
”それ”は、試合の中で使える、ということだ。関節技とキックと違って!!
 
 
その正体を聞いたとき、桑島秋人は日比野千歳の”ほんとうのおそろしさ”を感じた。
これは戯れ言でも幻想でもなんでもなく。確実に日比野千歳が秘めているもの。
 
 
リングにあがれば、姉が対峙することになる。
 
それなのに、いきなりどこへ行ったのやら・・・・・・
 
 
戯れ言にまじめに対抗しようとしても、それこそ戯れ言になるだけだというのに。
 

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