相打ちから始まった最終ラウンドは今まで異常の歓声につつまれた。
もはやノックアウト寸前かと思われた美月の思わぬ反撃に出鼻をくじかれてしまった聡里だったが、態勢を立て直し攻勢に出る。
しかし

バグッ

聡里がKOを狙ってパンチが大降りになってしまっていた所を
美月がパンチを掻い潜り、逆にの美月の左フックが聡里の顔面を打ち抜いた。

「ぐうっ」

さらに追い討ちをかけるべく美月が距離をつめラッシュをかける。

「そこだー!やっちゃえー!」

「痛い痛い、美紗緒いたいって!」

興奮した美紗緒が隣に座っているリサの頭をつかんで声を上げる。

さらに美月はワンツー、フック。聡里はガードを固めてこらえる。
美月のボディのダメージは1分のインターバルでは抜けてないと踏み、逆転のKOを狙っていた聡里は
思わぬ反撃に虚をつかれてしまった。

(くっ冷静にならないと・・・!)

ボティはかなり叩いた筈、なのにここまで回復するとは予想外だった。
だが猛然とラッシュをかけているように見えるが、序盤に比べパンチの勢いも明らかに落ちている。
確実にボディへのダメージは残っている。しかし最後の力を振り絞り、玉砕覚悟でダメージも忘れて向かってきいるのだと聡里には映った。

(なら・・・ボディの痛みを思い出させて止める!)

ズドッ

美月の右フックをパーリングで防ぎ、ガードの隙間を縫い美月のボディに聡里のボディアッパーが突き刺さる。

「ぐ・・・うっ」

今まで試合への集中で今まで忘れかけていたボディへのダメージがよみがえり、美月の顔が再び苦痛にゆがむ。

(これで・・・ッ?!)

バグッ

反撃に転じようとした聡里の顔面が吹き飛ぶ。
聡里のボディによって一瞬動きを止めたかに見えた美月だったが、その勢いはとまらず
右フックが聡里の顔面を捉えていた。

(まだ!まだいける・・・!)

ボディ攻撃を受けてもなお美月のラッシュは止まらない。いや、自身でも止められなかった。
もしここで止まってしてはもう動けないような、そんな気がしたからだ。
またしても予想外の反撃に面を食らったが、聡里も黙ってやられるわけにはいかない。

(それなら、止まるまで打ち込めばいい事・・・!)

意を決し打ち合いに応じ、激しい乱打戦となった。
互いの死力を尽くした打ち合いに、会場は割れんばかりの歓声が湧き起こる。

「高梨ー!」

「美月ちゃん!」

「さとりせんせー!」

バグッ

一進一退の攻防が繰り広げられていたが、その均衡が崩れた。
美月のラッシュのペースが落ちてきた所に聡里のカウンターが突き刺さる。

「ぶふッ」

大きく仰け反り、バランスを崩しそうになるがなんとか持ち耐える。鼻の奥が熱い。
ツーッと鼻血が滴り落ちる。鼻血で呼吸が遮られさらに苦しくなる。
さらに

「う・・・ぶぅ・・」

聡里の青いグローブが美月の腹にめり込み、呼吸とともに胃の中のものまで吐きだしそうになる。
そこへ聡里が追い討ちをかけようとするが、美月が聡里に体を預けるようにもたれかかりし、クリンチで辛うじて凌ぐ。

「ぜぇ・・・はぁッ・・・はぁっ」

「はぁっ・・ふっ・・・ふぅ・・・」

互いの体が密着し、吐息が絡み合う。
レフェリーに引き離される瞬間までのわずかな時間がとても長く感じられた。
そして再び拳と拳のぶつかり合いが始まる。

(やば・・・息苦しさと痛みで意識が飛びそう・・・集中しないと・・・)

バンッバグッ

(まだ・・・もっと・・・)

グシャァッ

聡里の打ち下ろし気味の右ストレートが決まり、美月の口からマウスピースが唾液とともに吹き飛んだ。そして

ドッ・・・

スローモーションのように美月の体がゆっくりとリングに崩れ落ちていった。

「・・・静かだなぁ・・・」

天井のライトを見つめながら美月はそうつぶやいた。

 

つづく

 

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