「相手の選手って強いのかなぁ・・・」

パンフレットを見ていたリサに美紗緒が聞いた。

「戦績は3勝1敗1分け・・・3勝のうちKOは2回、今3連勝中だって」

「うーん、強い・・・のかな」

「強いんじゃない?3連勝してるし」

「そっかぁ・・・美月ちゃん大丈夫かなぁ」

美紗緒と千歳が不安げにリングの美月を見た。ちょうどゴングが鳴る所だった。

カーン!

ゴングが鳴り、リング中央でグラブをあわせる両者。先に動いたのは聡里の方だった。
距離を詰めてワンツーを美月に浴びせる。

「くっ」

パンチはさほど重くはなく、ガードはしたものの少々面を食らった。
さらに距離を詰めて積極的に攻める聡里。

ドッ

 

ジャブはガードをしたが、すかさずボディにパンチが飛んできた。

「相手、なかなかパンチの打ち分けがうまいね」

「感心してる場合じゃないよっ」

リサの言葉に美紗緒が思わずつっこんだ。千歳はただ黙って不安そうなまなざしでリングを見つめていた。

「美月ちゃん押されてるよ・・やっぱりあいて強いんだ・・・」

「いや、大丈夫じゃないかな」

「え?」

聡里のパンチをガードしつづけ、追い詰められているように見えていた美月だが、次第に体がほぐれてきたのか、ヘッドスリップなどでパンチをかわし、パンチを打ち返す場面が増えてきた。
会場の雰囲気に押されてか散漫になっていた集中力がやっと相手に向いてきた。

(ここだッ!)

ズバンッ!

聡里のパンチパンチかいくぐり、美月のカウンターが聡里の顔面を打ち抜き、さらに聡里が大きくバランスを崩した所に追撃の右ストレートが聡里の顔面を捉える。

「ダウン!」

「きゃーっさとりせんせー!」

会場から子供達の悲鳴が響き渡る。先ほどまでとは打って変わって子供達の悲鳴の大合唱。

「やったやった!ほら言ったでしょ、美月ちゃんなら大丈夫だって!」

「う、うん」

「言ってないし・・・」

さっきまでのうろたえ様から一転、おおはしゃぎで千歳に抱きつき満面の笑顔の美紗緒。
やれやれといった感じでそれを横目で見るリサ。

カウントが8まで数えられた所でふらりと立ち上がる聡里。

「ボックス!」

レフェリーが試合再開を告げると、今度は美月が攻めに転じ打ち合いになった。
聡里もパンチを返すもののまだダメージが抜けないのか、時折単発で返すだけでガードを固めている場面が多かった。
美月がラッシュをかけようとした所で第1ラウンド終了のゴングが鳴った。

「良いですよ美月さん、その調子その調子」

「はぁ、はぁ・・・はいっ」

セコンドについている会長のかなえが美月の口からマウスピースを取り出す。

「・・・」

何か違和感を感じる、文月はそう思った。
確かに今のラウンド美月が押していたが・・・。

「あの子、強いですね」

「ああ、お前ダウンさせられた時はかなり焦ったぞ。」

「ええ、でも誘いに乗ってくれましたし、手ごたえはありました、このまま行きます」

「よし」

セコンドアウトのアナウンスが告げられ、第2ラウンドのゴングが鳴った

 

つづく

 

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